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無国籍の世界観

2011年05月17日

徹底したこだわりに基づいた多様なデザインソースからなる製品に、全体としてフランス的かつエルメス的な雰囲気を添えるのに重要な役割を果たしているのが、工房という生産システムだ。エルメスの製品は、個人作家による「作家物」と大量生産による「普及品」の中間にあり、デザイナーの原画そのものが再現されるわけではない。現在、公になっている資料によれば、スカーフの完成には次のような過程がとられている。デュマはグローバル化のなかでの世界的な文化の画一化に反するように、各地の文化の個性を重視する旨を語っているが、その言葉どおり、デザイナーの国籍や居住地もさまざまだ。1998年時点でスカーフ専門のデザイナーは約20名だが、その出自はフランスはもちろんのこと、ギリシャ、ドイツ、ロシア、アメリカなど多岐にわたっている(これに随時デザイン案を持ち込む者が加わる)。そのため、地域性に富んだ作品も多く、デザイナーが自らの出身地に想いを馳せたものも少なくない。ギリシャ出身のデザイナーが1821年のギリシャ独立戦争(ギリシャは約4世紀にわたりトルコの支配下にあった)の勝利をモチーフにした「1821」を描いたり、ネイティブアメリカンの末裔のデザイナーがアメリカ先住民文化の色濃い作品を描いたりしている。エルメス本社内にオフィスを構える者は1名だけで、他のデザイナーはそれぞれのアトリエでデザインを行なっている。ノルマンディーに住むデザイナーにその海岸風景や時空の広がりを感じさせる作品が目立つなど、地域の気風も生かされているようだ。